「金」は人と人のつながりを阻む?コワーキングビジネスモデルの課題

「給料をもらうために働く」から「お金を払ってまで働く」という逆説的な状態をごく普通のことに変えていったコワーキング業界。日本のYahoo LodgeやロンドンのWeCoffeeという無料のコワーキングを提供している企業は存在するが、大半の業者は個人メンバー(あるいは企業メンバー)が支払う利用料に経営を頼っている。この方法は、根本的に悪いモデルではないのだが、人と人のつながりを阻む側面は必ずある。さて、「金」はどんなときにつながりやコミュニティの「敵」になってしまうのか。

「金」は多様性を阻害する?

多様な人々の「Creative Clash」(創造的衝突)によって面白い空気が生まれ、新鮮なイノベーションの創出が期待されるコワーキング。しかし、ニューヨークやロンドンのような多文化都市においても、ワークスペースで見かけるのはやっぱり白人のみ。アフリカやアジア出身の人は極めて少なくて、あまりコワーキングの魅力を意識していないとともに、利用料を払うほど(起業家あるいはフリーランサーとして)の余裕ないケースが多い。特に若者がそうだ、というのが5月の(筆者も参加した)London Coworking Assemblyの会議での論点となった。

簡単なことだが、月数万円の利用料が入会の条件となれば、コミュニティの多様性の幅はグンと小さくなる可能性が高い。若者、マイノリティ、初期の起業家やアーティストなどの入会は難しくなり、似た者同士ばかりが入ってくる。それを「問題」と見なすかどうかは、それぞれのコワーキング・コミュニティや、運営する業者の価値観やビジョン、それから利用者の期待による。

「デザイン」や「モノ」重視、人材無視でつながりが実現しない?

コワーキングは、草の根的な「社会運動」から、大きな「不動産ビジネス」に変わってきていることは間違いない。「コラボレーション」「多様性」「オープン性」「持続可能性」といった元々の価値観は薄れ、ピカピカのデザインオフィスが強調されるようになっている。理由は単純。「クールなスペース」は写真写りが良く、初めてのビジターを感動させるのに効果がある。表面的であっても、入会者を増やすための有効な武器になっているのだ。まさに、不動産業界が好む営業モデルだ。 

しかし、「モノ」と「デザイン」で営業する業者は、コワーキング人材の大切な役割を無視してしまう傾向がある。物理的な空間がきれいなだけでは、つながりもコラボレーションもなかなか自動的には発生しない。だからこそ、メンバーと日常的に向き合うスタッフのクオリティや創造性が非常に重要だと言える。スタッフが、イノベーティブなコミュニティを起動・維持するための知識や経験を持つかどうかによって、そこで生まれるコミュニティの可能性は大きく左右される。要するに、「モノ」で「金」を稼ごうとすることには限界があり、コワーキングの付加価値を高めるためには、優秀で適切な人材への投資が欠かせない。

つながりを推進するための解決策はあるのか

このような問題は、両方とも利用料に頼るというコワーキングの(今や一般的だと言える)ビジネスモデルに根源がある。では、解決策はあるのか?多様性の問題に関しては、いわゆる「cross-subsidization」(補助金)戦略をきちんと導入すれば、排除されやすいグループが、低い料金(あるいは無料で)入会できることになる。多様性が高まることによって、メンバーの創造性や満足度が全体的に上がれば、このような補助制度は「良い投資」だと言えよう。一方、デザインや「モノ」重視の問題に関しては、不動産業界を超えた様々な専門家と一緒に、コワーキング戦略について考え直すことが有効だろう。「モノ」と「人」への投資のバランスを取りなおすためには、優秀なスタッフの(つなぎ役やコミュニティデザイナーとしての)役割やノウハウをはっきりと定義したり、コミュニティ形成を数値化したり、といったステップを検討することが必要なのではないか。もちろん、ビジネスモデルのピボット(回転)を目指す道もある。コワーキングスペースが生み出す多様な価値と、それを持続可能なビジネスとする経済的な価値(つまり、コワーキングの収益化)を切り離して考えれば、新しい可能性が見えてくるかもしれない。

 

*次のブログでは利用料中心のコワーキングビジネスモデルが生み出す「消費者意識」の問題について論じ、解決策を探っていく。

 

Tuukka Toivonen